記憶にないエピソード

彼は15年ぶりに僕に電話口でこう言ったんだ。

「俺さ、お前に、どうしても言っておきたいことがあってさ」

僕は普段、電話の来ない人から電話が着た時点で、なんかヤな知らせじゃんって思っていて、電話でたときからずっと鼓動が早くて、「なに?」と僕が言うと、

学生時代に、僕が八王子に住んでいる頃、彼がバイト先の先輩に殴られて、顔を腫らせて泣きっ面で、行くあてもなくて、真夜中に僕のうちに来たときに(僕の家は八王子駅すぐだったから)、何も言わず家に泊めくれたことの礼をずっと僕に言おうと思ってたと言った。

色々な記憶をエピソードとして持っている僕でも、まったく記憶にない話だった。

「なに、その話?」と僕は覚えがないと言って、いなしたけど、

「あのときはほんとに助かったよ」としみじみと彼が言うんだから、

ひょっとしたら、そういうことはあったんだろう。

八王子のラーメン屋の上の僕の部屋はたくさんの友達が複数回遊びにきていたし、飲み会の前とか後とかいつも僕の部屋に集まっていたから、たぶん僕は覚えていないんだろう。

それに僕が無意識に人に親切にすることはまあ、ありえる話だし、彼が人に殴られて泣いていることは大学時代けっこうあった話だし、たぶん事実だったんだろうと今、なんとなく思っている。

というか、そんな話をわざわざ僕にしてくれるなんて、いい奴だなと思った。

どんな奴でも友達は大事するもんだな。

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この記事を書いた人

三重県生まれ。現在は給食調理員をしながら両親と3人で暮らしています。趣味の読書と音楽鑑賞に加えて、自分でも様々なものを書いています。

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